2007年11月21日

スラムダンク奨学金に思うこと


こんにちは。
東京近辺もめっきり冷え込んでまいりましたね。
(て毎回のように書いているような気がしますが、私は寒がりなのです。ご容赦を笑)

少し前の11/8、9日と、朝日新聞にこんな記事が掲載されました。
マンガの力(1) スラムダンク奨学金(上)
http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200711080197.html


マンガの力(2) スラムダンク奨学金(下)
http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200711090205.html


このスラムダンク奨学金、かいつまんで言えば、漫画『SLAM DUNK』の作者・井上雄彦さんが発行部数1億冊を記念して、日本の高校生にアメリカ留学を援助する、というものです。

この企画が発表されたときはかなり衝撃的でした。
というか、私自身がスラムダンクの猛烈なファンなので、「ああ、井上さんは今でもずっとバスケが好きなのね…」ということが最初に来てしまったのですが(笑)「そんなアイディアをよくぞ思いついたなぁ」という驚きもあり、それより何より、バスケットが好きな人間がこれだけバスケットのことを思って行動したんだという事実が嬉しくて尊くて、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

早いもので、田臥勇太選手が海を渡ってから、もう10年近い時が過ぎようとしています。
あれからアメリカに挑戦する選手の数は劇的に増えました。伊藤大司選手や松井啓十郎選手のように、高校からアメリカに渡り、「NCAAディビジョンT所属の大学でプレーする」という、ひとつの結果を出す選手も現れました。

そんな中で個人的に思うのは、やはり上昇志向があるのならば、早い段階…できれば高校から、遅くても大学から海外に渡るという選択肢を頭に入れておくべきだということです。

井上氏はビジネスジャンプの取材に対し、こう答えています。
「日本とアメリカが、どの時点でそのレベルの差が決定的になるかと言えば、それは大学ではないかと思います。その分かれ道でアメリカに進む選択をしたい選手はたくさんいるはずなのに、実際はその方法がわからない。道筋がない。そのチャレンジのひとつの道を作ってあげることがこの奨学金の意図です。また、アメリカのディビジョンTの大学でプレイすることが、各国のスカウトが見ているという意味からも世界的な選手への最適な一歩だと思うからです。」

5年ちょっとではありますが、実際に大学生を取材してきて感じることは、日本の大学で高校時代ほどのモチベーションを維持してバスケットを続けている選手はごくわずかだということです。

まず、自分で決めなければいけないことが大幅に増えます。食事の管理やスケジューリング(取得する授業が違うから練習できる時間もばらつきが出てきます)、20歳になればお酒やタバコも楽しめるようにもなります。
自己管理というのはただでさえ難しいこと。その上アスリートにはいつだって「将来」という見えない敵が存在します。
高校時代はとにかくガムシャラにバスケットだけを頑張っていられた。しかし、視野に余裕が出て、周りを見回してみたときに彼らは気づきます。
大学卒業後このままバスケットだけを続けられるのか?
ケガをして選手生命を絶たれたときに自分に残っているものは何か?
そして大半の選手が、無意識にかもしれないし、意識的にかもしれないですが、バスケットだけに懸けていた情熱を他のものに割くことになります。

これはアメリカの大学でも同じなのかもしれないですが、何より日本には大学以降の受け皿が少なすぎる。さらに、人気も知名度も高校時代から格段に落ちます。
乱暴な言い方をしてしまえば、バスケットなんていう「夢」なんか見ていられなくなるのです。

高校時代はスーパープレーヤーだった選手が、その貴重な才能を伸ばすことなくへたりこんでいく姿を何回も見てきました。バスケット以外の目標を見つけたのならそれでいい。一番辛いのは、モチベーションが下がりきった状態で「他には何もないからとりあえず」といった風情でバスケットを続けている選手を見ることです。

もちろんその中でモチベーションを維持して頑張っている選手もたくさんいます。高校時代は無名だったところからJBLやbjリーグのスタープレーヤーも誕生しました。ただ、世界に通用するプレーヤーになるためには、大学を卒業してから海外に行くのでは正直遅いと思います。(田臥選手ですら、18歳でアメリカに渡り、27歳になる現在も挑戦を続けているのですから。)

現役選手として活躍できる時間は限られています。トッププレイヤーへのモチベーションを高め、成長した上で「成熟・昇華」する時間を考えると、行動は一刻も早く起こすに限るのです。

また、多感なハイティーン時代に自ら望む形で海外で経験することは、その後の人生に大きな影響を与えるでしょう。私が経験したわけではないので実感として言えることではないのですが、留学した友人というのは、まず日本にいる時点でちょっと他の人と違う感覚・モチベーションを持ち合わせています。現地で環境の違い、言葉の壁など、日本で暮らしていたら到底経験しえないような混乱にぶち当たったことによって、さらにその感覚を研ぎ澄まして帰ってきた。そんな印象を受けます。

スラムダンク奨学金1回目の奨学生は福岡第一高校の並里成(なみざと・なりと)選手に決定しました。彼は以前から海外志向の強い選手でしたが、見事その第一歩を勝ち取り、来年の4月から挑戦を開始する予定です。日本まったく異なる環境に飛びこむのですから、ストレスが生じるのは当然のことです。しかし、そのストレスに打ち克ったところから見える景色というのは、きっと素晴らしいものだと思います。

スキル・感覚・経験。海外で得たそれらの財産をいつか日本のバスケットに還元してもらえたら、バスケットを愛する者としてこの上なく嬉しい。きっと、井上氏も同じ気持ちでしょう。

余談ですが、個人的にはアメリカだけでなく、ヨーロッパに渡る選手が出てきてもいいと思います。1対1や身体能力が要求されるアメリカバスケットよりも、システマティックなバスケットを展開するヨーロッパのバスケットのほうが日本人には向いていると思うからです。ヨーロッパに通じている人があまり多くないのがネックですが、一つの選択肢として頭に置いていてもらえると嬉しいです。


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プロフィール
青木美帆/Miho AWOKIE
1984年生まれ。早稲田大学卒業。早大体育会の報道紙「早稲田スポーツ新聞」でバスケットボール部を担当したことをきっかけに、在学中からバスケットボールに関する取材活動を開始。現在はフリーのバスケットボールライターとして中学バスケットボール(白夜書房)、FreeBas.(フリーペーパー)などで執筆中。周りからはさんざん「無謀だ」と言われていますが、体当たりで頑張っています。
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